不定期連載小説・「薄闇の町」
薄闇の町 夕暮れ近い裏通りの奥の行き止まりの壁を前にして向かって右に暗い細い道がある。 古い煉瓦の壁と古い煉瓦の建物の間を走る石畳の細い道をどんどんと奥まで歩いて行くと、 古い煉瓦の建物と古い煉瓦の建物の間を縫うようにして続く狭いがたがたの階段がある。 その階段を降りていくと、行き止まりの壁。 その壁には緑青が鮮やかに広がった青銅の重々しい両開き扉がある。...
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ロドリゴの工房のレティ親方 使い古したエウロペ革の前掛けをしたロドリゴ・レティ鏡工房の親方、ロドリゴ・レティその人は、 注文していた鏡磨き用の支那柘榴1ダースを買いに、ワンダ・ミザリーの薬草店へと出向く。 ロドリゴの手にかかれば真っ赤や灰色に錆付いた鏡でも元通り。 世界の果てまでも映し出すようになる。 それもワンダの扱う質のいい支那柘榴のおかげだ。...
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ネイサン・フォリー宝石店の宝物 ネイサン・フォリーは、早くに両親を亡くした。 幸運だったのは、ネイサンは天才的な宝石の鑑定眼と宝石との会話がとても上手かったということだ。 百年から、もうすぐ千年になろうとしているネイサン・フォリーは、 そろそろ、恋人が欲しいと人知れずに願っていた。 若々しい淡い金色の髪に象牙色の肌をしたなかなかの美人であるネイサンに誘いをかけてくる男達はいるにはいるが、...
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ミヒャイロフの多忙すぎる一日 去年、亡くなった父アンドレフ・ユスチヌフの跡目をついだのはいいが、 母、アンナレニーナ・ユスチヌフと妹のラーラ・ユスチヌフと三人で執り回すには、 少しばかり無理がありそうなほど多忙な日々をミヒャイロフ・ユスチヌフは送らされていた。 本当はまったく別の仕事がしたかったミヒャイロフは、父親と何度となく激しく争い、今しも店を出奔しようと準備していたのだが、...
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パヴァロッティの憂鬱 アルマンドロ・パヴァロッティは、チェコやドイツでも認められた名工蝋人形師、ワックス・ワークである。 名工の栄誉を若くして受けたと歌われてはいるが、万年に手が届く自分を思えばそろそろ後継者を決めたいところであった。 「パパ、マイユーさんのオーダー品、できたよ」 「ああ、ごくうさん」 一人息子のサンドロは、まだ百年に行くか行かないかと言う年齢だと言うのに、...
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アチャの災難 妖艶で百年そこそこの若く美しい妻、スジャーター・ランダ。 夫はもうすぐ、万年を迎えるアチャ・ランダである。 男としての最高の幸せは、最高の不安の種であった。 スパイシーな料理が得意で余計な無駄口も叩かず、大きな黒い瞳に見つめられると魂まで溶けてしまいそうになる。 アチャはこの町で先祖代々、雑貨店を営んでいるが、娘のように年の離れた妻を迎えられたのは、...
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アチャの災難・その2 自分の雑貨店のドアを勢いよく開けて、店番をしていたバロンを血走った凄まじい目で睨みつけた。 バロンは背筋がぞっとした。 こんな、主をはじめて見たからだ。 「マスター・・・?!」 アチャはいきなり、呆然としているバロンの胸元を引っ掴んだ。 「ぅわっ!」 驚いたのはバロンだ。 こんな目にあういわれなんてない。 何の失敗もしていないはずだ。 「この恩知らずめっ!...
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ネクタル家の誇りに積む埃 ネクタル家と言えば、神の飲み物と呼ばれた栄養、滋養とも豊かな飲み物、ネクターの創始者であり、 喜びと節度を教える飲酒の礼儀を記した“神なる陶酔”の著者として有名な、グレーン・ネクタル氏を輩出した。 神殿や医聖のご用達として代々、酒を商ってきた名家である。 現在の当主であり、ネクタル・カバレのマスター、モルト・ネクタルは、...
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不定期営業店 中央広場に7人の小人達がどかどかと走り込んでくる日は、 不定期営業店、カチャーリの食材屋が開店する。 カチャーリは禿げ頭の親仁で、世界中の海や山々に出向き、薄闇の町ならではの美味い食材を集めてくるのだ。 何年も間が開くこともあるし、何ヶ月毎の時もある。 年齢も出身も不詳だが、カチャーリの店の開店は、皆が待ち望んでいるのだ。 7人の小人達は瞬く間にテントの骨組みを建て、露天を広げる。...
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弟子達の未来 「どうもこうも!」 「ああ、まったくだよ!」 バロンは桃煙草を買いに来てカチャーリにスジャーターのことを聞かれたのだ。 アフマッドは山羊コーヒーを買いに来たついでに、ぶちまけた。 「お客様に挨拶しただけなんだよ! にっこり笑って、またどうぞっていうよね、普通! それなのに、汚らわしい間男だなんて罵るんだ!」 「帰ってきたら大騒ぎさ。 店の中はめちゃくちゃだし、...
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